一般基準
立地基準と並んで農地転用許可の審査基準となるのが一般基準です。
立地基準は、 転用を行う者が自力で変えることのできない条件でしたが、一般基準
は積極的にクリアすべき条件です。
ひとつずつ見ていきたいと思います。
農地法第4条第6項第3号には、許可を受けられないケースとして、以下のような
条文があります。
農地法第4条第6項第3号 申請者に申請に係る農地を農地以外のものにする行為を行うために必要な資力及び信用があると認められないこと、申請に係る農地を農地以外のものにする行為の妨げとなる権利を有する者の同意を得ていないこと その他農林水産省令で定める事由により、申請に係る農地の全てを住宅の用、事業の用に供する施設の用その他の当該申請に係る用途に供することが確実と認められない場合。 |
事業実施の確実性について
①転用を行うために必要な資力及び信用があると認められないこと。
まずは「資力」です。転用にはお金がかかります。
例えば、住宅の建築が目的であったとして、これにかかる資金は、どれほど少なく見積もっても数百万円でしょうし、数千万円かかることも珍しくありません。
この財源が確保されていなければ、転用の許可を取っても、目的を果たすことはできません。
実務では、預金通帳のコピーや融資に関する証明書等、法人の貸借対照表を提出すること で、この資金計画の確実性を担保します。
次に、「信用」です。
これは、自然人であれば、法律上の行為能力を有することがまず挙げられます。
未成年者や成年被後見人は自ら申請ができないので、法定代理人が代理で申請することになります。
法人で言えば、定款などに従って、特別の定めがある場合はその規定に適った手続きが踏まれていることが必要です。
また、過去に複数回、転用許可を申請している場合などは、過去に受けた転用許可の事業 が、計画通り行われているかも審査の対象となります。
他の農地で無断転用を行っていないかということも、この「信用」に関わる話であると言えます。
②申請に係る農地を農地以外のものにする行為の妨げとなる権利を有する者の同意を得ていないこと。
これは、転用を申請する農地に対し、賃借権などの利用権が設定されていないかと
いうことです。
農地は所有者と耕作者が別のことも多く、営農の効率性の観点からも、賃料を払って耕作している者の権利は守られなければなりません。
ただし、使用貸借の権利は賃借権と同様には守られません。
また、実務では転用する農地の隣地が農地の場合、転用についての隣地の承諾書を添付書類として求められることがあります。
この隣接する農地の所有者や耕作者は、ここでいう「農地を農地以外のものにする行為の妨げとなる権利を有する者」には含まれません。
③許可を受けた後、遅滞なく、申請に係る農地を申請に係る用途に供する見込みがないこと。
農地法の条文には明記されていませんが、農地法施行規則第 47 条第1号に規定されています。
「遅滞なく」とありますが、原則、許可の日から1年以内に転用の工事が完了することを条件とする運用がされています。
実務では、3 か月ごとに転用工事の状況の報告をするように求められることが多いです。
④申請に係る事業の施行に関して行政庁の免許、許可、認可等の処分を必要とする場合においては、これらの処分がされなかつたこと又はこれらの処分がされる見込みがないこと。
農地法施行規則第 47 条第2号に規定されていますが、関係する他法令の許可見込みがない申請については、農地法の許可も受けられません。
当然と言えば当然ですね。
例えば、市街化調整区域で建築をする目的での転用であったとして、市街化調整区域での建築を禁じる「都市計画法の許可」を受けない限り、農地の転用の許可を受けてもあまり意味がありません。
ひとまず農地法の許可のみ取得し、後で「都市計画法の許可」を取るつもりでいても
都市計画法の許可が受けられるかどうかわからなければ、転用目的以外の用途に使われてしまう可能性が大きいことから、このような許可の受け方はできないとされています。
⑤申請に係る事業の施行に関して法令(条例を含む。第五十七条第二号の二において同じ。) により義務付けられている行政庁との協議を現に行っていること。
農地法施行規則第47条第2号の2の規定です。
④と似たようなケースですが、こちらは許可見込みではなく、許可とは関係なく、行政との協議によって施設の立地が変わる可能性があるケースを想定しています。
まだ他法令や条例に規定された協議をしている最中に農地法の許可を出してしまえば、 結果的に転用が進まない可能性があります。
⑥申請に係る農地と一体として申請に係る事業の目的に供する土地を利用できる見込みがないこと。
この、農地法施行規則第47条第3号の意味は、農地以外の土地と併せて事業の用に供す る際に、農地以外の土地をほとんど利用せずに、転用事業者の都合で農地を転用することを防ぐということです。
⑦申請に係る農地の面積が申請に係る事業の目的からみて適正と認められないこと。
農地法施行規則第47条第4号です。
これは単純な話ですが、必要な面積だけ転用の許可を申請してください、ということです。
さらに、市街化調整区域では、登記上面積が広い農地の一部を転用する場合、分筆登記ま で終えていないと申請を受け付けてもらえない運用がされていることがあります。
実務的には、建物の建築の場合は、建ぺい率にしておおよそ 20%程度はないと、転用希望の面積の理由を求められます。
駐車場や資材置き場などは、出入りスペースを含めてほぼ全部を利用する計画を求められます。
⑧申請に係る事業が工場、住宅その他の施設の用に供される土地の造成(その処分を含む。) のみを目的とするものであること。
農地法施行規則第 47 条第5号です。
これは、最終的な目的が建物の建築や工作物の設置であるにも関わらず、その途中の造成までを目的とした転用の許可をすることを 禁じた条文です。
造成で目的を達成してしまえば、その後の事業が行われる見込みは薄れ、転用事業者の経済状態によっては、転売されるなど、当初の目的とは別の目的に供される可能性も出てしまいます。
なお、建築条件付きで転売をすることが目的で、許可後おおむね 3 か月以内に建
物の請負契約がされることが確実など、宅地造成後の建築が確実に行われる見込みのあるものは「土地の造成のみを目的」とはみなされません。
被害防除措置の妥当性について
許可を受けられないケースを記した、農地法第4条第6項第4号の条文です。
農地法第4条第6項第4号 申請に係る農地を農地以外のものにすることにより、土砂の流出又は崩壊その他の災害を 発生させるおそれがあると認められる場合、農業用用排水施設の有する機能に支障を及ぼ すおそれがあると認められる場合その他の周辺の農地に係る営農条件に支障を生ずるおそ れがあると認められる場合 |
これは、簡単に言えば、申請地を転用することで周辺農地の営農に支障が生じるよ
うな被害が及ばないようにしてください、ということです。
具体的には
①土砂の流出
②農業用の排水施設の機能を損なう
③連続していた農地を分断してしまう
④周辺農地の日照・通風を妨げる
⑤農道やため池など、農業のための施設の機能を害する
といったことがないように、対策をしなければならないとされています。
農地転用申請時に計画図面などで、被害防除ができることが確実であることを説
明することになります。
効率的・総合的な農地利用について
農地法第4条第6項第5号 申請に係る農地を農地以外のものにすることにより、地域における効率的かつ安定的な農業経営を営む者に対する農地の利用の集積に支障を及ぼすおそれがあると認められる場合その他の地域における農地の農業上の効率的かつ総合的な利用の確保に支障を生ずるおそれがあると認められる場合として政令で定める場合 |
この条文は、立地基準でいうところの、農地の集団性を損うような転用を認めない、とい う基準に近いニュアンスがあります。
ここでは、営農をする人にスポットを当てています。
仮に農地の集団性を損なわなくても、効率的な営農を行っていた者が、その耕作地の一部 が転用をされることで営農の効率性を失うようなことは避けてください、ということです。
また、農業振興地域の整備は、市町村ごとにその計画が立てられて指定が行われますが、 その全体の計画に影響を与えるような転用も避けるようにという規定でもあります。
一時転用について
農地法第4条第6項第6号 仮設工作物の設置その他の一時的な利用に供するため農地を農地以外のものにしようとする場合において、その利用に供された後にその土地が耕作の目的に供されることが確実と認められないとき。 |
様々な理由から、一時的に農地を転用したいというケースがあります。
そんな場合に、一 時的な転用を認めてしまったが故に、結果、原状回復がなされなかったということを避けるために、一時転用の場合は、原状回復への確かな計画を示す必要があります。
「一時転用」とは、
①ある建築物の建築のために、一時的な資材置き場を確保する
②大規模イベントの開催のための臨時駐車場を確保する
③農地を使った研究のための実験や学術調査を行う
④砂利の採取を行う
といったことが挙げられます。
なお、営農型の太陽光発電設備の設置は、全体としては転用がされているわけではありま せんが、支柱の基礎部分についての一時転用になるため、その部分についての原状回復の計画を求められます。